ホーム > サンゴ礁話題いろいろ > サンゴの色について
サンゴの色について
2008.2.28(木) 掲載
鮮やかな熱帯魚が乱舞し、多様かつカラフルなイメージのあるサンゴ礁、サンゴに目を移すと思っている以上に様々な色が見られることに気が付きます。特に大規模なサンゴ白化時には、白く透けたサンゴ骨格とのコントラストでよりその多様な色が浮き彫りになったりします。我々が普段見ているサンゴの色はどのようにして決まっているのでしょうか?実際には大きく分けて3つの型があるようです(光学的にはもっと細かい定義があるようなので注意が必要です)。

写真1:一見地味なサンゴ群集にも多様な色が見られる(写真:中村崇)
<1>色素色
:一定波長の光を吸収する性質を持った「色素」に吸収されなかった色です。
主にサンゴでは、共生している褐虫藻の光合成色素(クロロフィルやカロテノイド系色素が合わさって緑色から褐色に見えます)と、サンゴ自身が作り出していると考えられている色素が目に見える主要な色を構成しているようです。

写真2:ミドリイシ(左2点)と白化したハナヤサイサンゴのポリプ拡大写真(右)(写真:中村崇)。
褐虫藻(写真の粒状のもの)が少ない部位では褐色ではなく、透けて見える
サンゴ宿主の持っている色素の例では、ハナヤサイサンゴ科のサンゴから分離されたピンク色の水溶性タンパク色素(科名Pocilloporidに由来して通称Pocilloporin「ポシロポリン」、Dove et al. 2001)や、スギノキミドリイシ、ユビミドリイシなどから青色や紫色にみえる、大きさが異なる色素タンパク質がそれぞれ分離されています。

写真3:ピンクや緑のイボハダハナヤサイサンゴの群体(左・中央)やコユビミドリイシ(右)でみられる青色(写真:中村崇)
また、あまり目には見えないのですが、Mycosporine Like Amino Acids(マイコスポリン様アミノ酸;通称MAA’s)と呼ばれる水溶性の紫外線吸収物質群を持っていることも知られています(元来、菌類の代謝産物から見つかった物質の一部がアミノ酸に置換されているためにこのような名前がついている)。MAA’sは、浅瀬に生息するサンゴにとっての紫外線防御、抗酸化物質(Mycosporine-glycineなど)として働いている事が推察されています(Dunlap et al. 1986)。
<2>蛍光色
:青色光や、紫外線などのエネルギーの高い光を分子が吸収して励起し、そのエネルギーが別の波長の光として出るときに見える色のことです(共役2重結合を持った分子によることが多い)。

写真4:キクメイシのポリプ周辺部の拡大写真。(写真:中村崇)
自然光下(左)と紫外線下(右)での見え方が違う点に注意
特にサンゴでよく知られているのがGFP(Green Fluorescent Protein: 緑色蛍光タンパク)と呼ばれている蛍光を発するタンパク質のグループです。GFPは青色の光を緑色に変換して発する「タンパク質」として始めてクラゲから分離され(Shinomura et al. 1962)、後にそのタンパク質を「コードしている遺伝子」が分離されました(Chalfie et al.1992)。このGFP遺伝子を他の生物の遺伝子と一緒に挿入して、目的の遺伝子のタンパクを蛍光タンパクと一緒に他の生物内で作らせることで、様々な遺伝子が生物のどこでタンパクを作っていくのかを詳しく観察ことができるので、分子生物学の分野では幅広く使われています。一般に真っ暗闇で紫外線(一般的にブラックライトといわれるもの)を当てるとそれを吸収して、可視光として放出するので、中から光っているように見えます。過剰な光エネルギーの一部を蛍光として発散する機能や、光合成を効率良く行なうための機能が示唆されています(Salih et al. 2000)。ミドリイシ属のサンゴの中軸ポリプ部(Papina et al. 2002)やキクメイシのポリプの胃腔周辺でもよく見られ、浅瀬のサンゴでよりハッキリ見えることが多いようです(実験的に蛍光タンパクを持っている枝サンゴ群体の角度を90度傾けると、なかったところに見られるようになったり、逆に光が当たらなくなった部位では元あった蛍光が数日〜数週間の間に減少して、最後は見られなくなったりもします)。

写真5:ミドリイシサンゴの枝部(左)とキクメイシ幼生(右)でのGFPの蛍光発光の様子(写真:Vicor Hugo, 井口亮)
<3>構造色
:それ自体は殆ど色を持たないタンパク質などが、規則的に配列されることで見える色です。
表面の微細な構造が入射する光を規則正しく反射、干渉したりして見えてくる色のことで、身近には蝶の翅に見られるメタリック調の模様や、CD・DVDの読み取り面・シャボン玉の表面などにみえる虹っぽい色などが例として挙げられます。

写真6:シャコガイの外套膜(左)とクサビライシの触手の拡大写真(中央・右)(写真:中村崇)
サンゴではないですが、シャコガイでは、外套膜表面の細かなタンパク質の配列構造が虹色っぽく見えることが知られています(Griffiths et al. 1992)。サンゴでの構造色の代表例はあまり無いようですが、基本的に暗闇で紫外線を当てた状態だと黒く見えるので判別可能かもしれません。また、一見透明なサンゴの軟体部組織にも微細な繊毛やイボ状の構造が並んでいる場合があり、光の具合によって様々な色に見えることがあります。
これまで挙げてきたように、我々が普段目にしているサンゴの色は様々な要素によって構成されているようです。サンゴの多くにとって「色」というのは本来必要不可欠と考えられます。様々な機能を持つ「色」を失うという意味でも、「白化」や原因不明の「ホワイトシンドローム」などはやはり異常状態なのでしょう。また、光合成、紫外線防御、抗酸化など、特殊な機能性を発揮している色もあれば、そうでないものもあるかもしれません。しかし、その中からこれまでに分っていない未知数の機能が発見されるかもしれません。
引用文献
Chalfie M., Tu Y., Euskirchen G., Ward W.W., Prasher D.C.1994. Green Fluorescent protein as a marker for gene expression. Science 263: 802-805.
Dove S.G., Takabayashi M., Hoegh-Guldberg O. 1995. Isolation and partial characterization of the pink and blue pigments of Pocilloporid and Acroporid corals. Biol. Bull. 189:288-297.
Dunlap W.C., Chalker B.E. 1986. Identification and quantification of near-UV absorbing compounds (S-320) in a hermatypic scleractinian. Coral Reefs 5:155-159.
Griffiths D., Winsor H., Luong-Van T. 1992. Iridophores in the mantle of giant clams. Aust. J. Zool., 40: 319-326.
Mazel C.H. 1995. Spectral measurements of fluorescence emission in Caribbean cnidarians. Mar. Ecol. Prog. Ser. 120:185-191.
Salih A., Larkum A., Cox G., Kuhl M., Hoegh-Guldberg O. 2000. Fluorescent pigments in corals are photoprotective. Nature 408:850-853.
Shinomura O., Jhonson F.H., Saiga Y., 1962. Extraction, purification and properties of a bioluminescent protein from the luminous hydromedusan, Aequorea. J. Cell. Comp. Physiol. 59: 223-240.
Papina M., Sakihama Y., Bena C., van Woesik R., Yamasaki H. 2002. Separation of highly fluorescent proteins by SDS-PAGE in Acroporidae corals. Comp. Biochem. Physiol. B. 131: 767-774.
執筆者:中村崇
サンゴの色について
鮮やかな熱帯魚が乱舞し、多様かつカラフルなイメージのあるサンゴ礁、サンゴに目を移すと思っている以上に様々な色が見られることに気が付きます。特に大規模なサンゴ白化時には、白く透けたサンゴ骨格とのコントラストでよりその多様な色が浮き彫りになったりします。我々が普段見ているサンゴの色はどのようにして決まっているのでしょうか?実際には大きく分けて3つの型があるようです(光学的にはもっと細かい定義があるようなので注意が必要です)。

写真1:一見地味なサンゴ群集にも多様な色が見られる(写真:中村崇)
<1>色素色
:一定波長の光を吸収する性質を持った「色素」に吸収されなかった色です。
主にサンゴでは、共生している褐虫藻の光合成色素(クロロフィルやカロテノイド系色素が合わさって緑色から褐色に見えます)と、サンゴ自身が作り出していると考えられている色素が目に見える主要な色を構成しているようです。

写真2:ミドリイシ(左2点)と白化したハナヤサイサンゴのポリプ拡大写真(右)(写真:中村崇)。
褐虫藻(写真の粒状のもの)が少ない部位では褐色ではなく、透けて見える
サンゴ宿主の持っている色素の例では、ハナヤサイサンゴ科のサンゴから分離されたピンク色の水溶性タンパク色素(科名Pocilloporidに由来して通称Pocilloporin「ポシロポリン」、Dove et al. 2001)や、スギノキミドリイシ、ユビミドリイシなどから青色や紫色にみえる、大きさが異なる色素タンパク質がそれぞれ分離されています。

写真3:ピンクや緑のイボハダハナヤサイサンゴの群体(左・中央)やコユビミドリイシ(右)でみられる青色(写真:中村崇)
また、あまり目には見えないのですが、Mycosporine Like Amino Acids(マイコスポリン様アミノ酸;通称MAA’s)と呼ばれる水溶性の紫外線吸収物質群を持っていることも知られています(元来、菌類の代謝産物から見つかった物質の一部がアミノ酸に置換されているためにこのような名前がついている)。MAA’sは、浅瀬に生息するサンゴにとっての紫外線防御、抗酸化物質(Mycosporine-glycineなど)として働いている事が推察されています(Dunlap et al. 1986)。
<2>蛍光色
:青色光や、紫外線などのエネルギーの高い光を分子が吸収して励起し、そのエネルギーが別の波長の光として出るときに見える色のことです(共役2重結合を持った分子によることが多い)。

写真4:キクメイシのポリプ周辺部の拡大写真。(写真:中村崇)
自然光下(左)と紫外線下(右)での見え方が違う点に注意
特にサンゴでよく知られているのがGFP(Green Fluorescent Protein: 緑色蛍光タンパク)と呼ばれている蛍光を発するタンパク質のグループです。GFPは青色の光を緑色に変換して発する「タンパク質」として始めてクラゲから分離され(Shinomura et al. 1962)、後にそのタンパク質を「コードしている遺伝子」が分離されました(Chalfie et al.1992)。このGFP遺伝子を他の生物の遺伝子と一緒に挿入して、目的の遺伝子のタンパクを蛍光タンパクと一緒に他の生物内で作らせることで、様々な遺伝子が生物のどこでタンパクを作っていくのかを詳しく観察ことができるので、分子生物学の分野では幅広く使われています。一般に真っ暗闇で紫外線(一般的にブラックライトといわれるもの)を当てるとそれを吸収して、可視光として放出するので、中から光っているように見えます。過剰な光エネルギーの一部を蛍光として発散する機能や、光合成を効率良く行なうための機能が示唆されています(Salih et al. 2000)。ミドリイシ属のサンゴの中軸ポリプ部(Papina et al. 2002)やキクメイシのポリプの胃腔周辺でもよく見られ、浅瀬のサンゴでよりハッキリ見えることが多いようです(実験的に蛍光タンパクを持っている枝サンゴ群体の角度を90度傾けると、なかったところに見られるようになったり、逆に光が当たらなくなった部位では元あった蛍光が数日〜数週間の間に減少して、最後は見られなくなったりもします)。

写真5:ミドリイシサンゴの枝部(左)とキクメイシ幼生(右)でのGFPの蛍光発光の様子(写真:Vicor Hugo, 井口亮)
<3>構造色
:それ自体は殆ど色を持たないタンパク質などが、規則的に配列されることで見える色です。
表面の微細な構造が入射する光を規則正しく反射、干渉したりして見えてくる色のことで、身近には蝶の翅に見られるメタリック調の模様や、CD・DVDの読み取り面・シャボン玉の表面などにみえる虹っぽい色などが例として挙げられます。

写真6:シャコガイの外套膜(左)とクサビライシの触手の拡大写真(中央・右)(写真:中村崇)
サンゴではないですが、シャコガイでは、外套膜表面の細かなタンパク質の配列構造が虹色っぽく見えることが知られています(Griffiths et al. 1992)。サンゴでの構造色の代表例はあまり無いようですが、基本的に暗闇で紫外線を当てた状態だと黒く見えるので判別可能かもしれません。また、一見透明なサンゴの軟体部組織にも微細な繊毛やイボ状の構造が並んでいる場合があり、光の具合によって様々な色に見えることがあります。
これまで挙げてきたように、我々が普段目にしているサンゴの色は様々な要素によって構成されているようです。サンゴの多くにとって「色」というのは本来必要不可欠と考えられます。様々な機能を持つ「色」を失うという意味でも、「白化」や原因不明の「ホワイトシンドローム」などはやはり異常状態なのでしょう。また、光合成、紫外線防御、抗酸化など、特殊な機能性を発揮している色もあれば、そうでないものもあるかもしれません。しかし、その中からこれまでに分っていない未知数の機能が発見されるかもしれません。
引用文献
Dove S.G., Takabayashi M., Hoegh-Guldberg O. 1995. Isolation and partial characterization of the pink and blue pigments of Pocilloporid and Acroporid corals. Biol. Bull. 189:288-297.
Dunlap W.C., Chalker B.E. 1986. Identification and quantification of near-UV absorbing compounds (S-320) in a hermatypic scleractinian. Coral Reefs 5:155-159.
Griffiths D., Winsor H., Luong-Van T. 1992. Iridophores in the mantle of giant clams. Aust. J. Zool., 40: 319-326.
Mazel C.H. 1995. Spectral measurements of fluorescence emission in Caribbean cnidarians. Mar. Ecol. Prog. Ser. 120:185-191.
Salih A., Larkum A., Cox G., Kuhl M., Hoegh-Guldberg O. 2000. Fluorescent pigments in corals are photoprotective. Nature 408:850-853.
Shinomura O., Jhonson F.H., Saiga Y., 1962. Extraction, purification and properties of a bioluminescent protein from the luminous hydromedusan, Aequorea. J. Cell. Comp. Physiol. 59: 223-240.
Papina M., Sakihama Y., Bena C., van Woesik R., Yamasaki H. 2002. Separation of highly fluorescent proteins by SDS-PAGE in Acroporidae corals. Comp. Biochem. Physiol. B. 131: 767-774.
執筆者:中村崇
