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サンゴとは?-サンゴが示す様々な生物学的特徴-

荒廃が進むサンゴ礁。その保全のために具体的に何ができるのか。現在行なわれようとしているアプローチの中には、サンゴ礁の基盤を形作る造礁サンゴの生物学的特徴をよく理解し、それをうまく利用する試みも含まれています。近年話題となっているサンゴ移植は、破片化による無性生殖が可能であるというサンゴの性質にうまく着目した手法であると言えます。Science5857号の”NEWS FOCUS”では、サンゴが示す様々な生物学的特徴(産卵、着底、共生)について取り上げられています。

サンゴの産卵と幼生の着底
サンゴの繁殖には、配偶子(精子と卵)を形成して幼生を作り出す有性生殖と幼生が着底してから分裂して増える無性生殖があります。サンゴ礁の大部分は無性生殖によって作られますが、減退したサンゴ礁の回復には、受精を伴う有性生殖というプロセスが非常に重要だと研究者たちは考えています。なぜなら、受精後に孵化した幼生は海中を自由に遊泳できるためよりよい着底場所を選択することができ、また有性生殖は様々な遺伝情報の混合を引き起こすので、急激な環境の変化へ対応しやすくなると考えられるためです。
そこでこれまでサンゴの産卵から着底までのプロセスに関する研究が盛んにおこなわれてきました。ここでは特に最近の研究に注目して紹介しています。

いつ産卵するのか?
サンゴの多くの種は特定の時期に同時に産卵する“一斉産卵”を行います。タイミングを合わせることで受精の成功率を上げるためだと考えられています。サンゴはいったいどのようにしてこのタイミングを計るのでしょうか?
これまで、産卵を引き起こすきっかけとして海水温の変化など様々な要因が考えられてきましたが、近年では「月の光」が有力視されています。多くのサンゴは満月の後一週間ほどで産卵します。サンゴには“目”のような光を感じる器官はありませんが、光に反応することができることはすでに知られており、月光に反応して産卵しているのではないかと考えられてきました。しかし、その具体的なメカニズムはわからないままでした。Levyら(2007)は青色光受容体の遺伝子をハイマツミドリイシAcropora milleporaで特定し、その活性を調べました。その結果、これらの遺伝子のうち、特にひとつは月光と同調した活性を示すことがわかったのです。この結果は一斉産卵と満月との関係を解く大きなヒントとなることでしょう。


写真:産卵するヒメマツミドリイシ(撮影:安部真里子)

サンゴの着底
産卵の時、多くのサンゴは精子と卵の入った塊(Bundle)を海中へ放出します。海面近くでそれがはじけて精子と卵が海水中に散らばり、受精が起こります。やがて幼生が海中を自由に泳ぎ回るようになりますが、幼生は適当な時期に海底の岩盤などにとどまり固着生活を始めます。これが着底です。この幼生が着底するきっかけや条件が様々な角度から調べられています。
カリブ海のElkhorn coralでは、着底場所の選定には、海底の岩盤表面などに付着している藻類に着くバクテリアが関係していると考えられています。Szmant とMillerは、石灰岩の板を海底に放置し藻類などを付着させた後実験室に持ち帰り、Elkhorn coralの幼生の着底の様子を観察しました。この実験で、Elkhorn coralの幼生は藻類の付着する面に好んで着底することが確認されました。この理由としてAIMS(オーストラリア海洋科学研究所)のNegriらは、藻類に付着するバクテリアがサンゴ幼生の着底を誘引していると考えています。
着底した幼生が成長するために重要な要素の一つに温度があります。これまでの実験では、水温が平均よりも1〜2度上昇すると生残率が低くなるという結果が出ています。しかし必ずしもすべての種に当てはまるわけではないようです。着底する場所の地理的な条件にも、多様性がみられます。たとえば、汚水や土砂流出でサンゴ礁の発達が阻害されている場所にも着底しているサンゴ幼生がいることも確認されています。
このようにサンゴ幼生の着底は実に多様であり、種によって異なるメカニズムがあると考えられます。DNAのマイクロサテライト領域*を用いた研究でも、交配する親の違いで、生まれた幼生の反応にも違いがあることも分かりつつあり、サンゴ幼生の着底に関する研究は今後さらに発展していくことでしょう。


写真:着底させたコユビミドリイシの幼生(直径約1mm、共生藻無し; 撮影:諏訪僚太)

サンゴの共生
サンゴの幼生は定着するための海底を見つけ出す以外にも約10μmという小ささの共生藻を取り込み共生体となる必要があります。サンゴは共生藻に住処を提供する代わりに共生藻が光合成を行って得た栄養の一部を貰います。このサンゴの共生においては、一部のサンゴは親から直接共生藻を受け継ぎますが、多くのサンゴは海中より褐虫藻を探し出して取り込む必要があります。定着したばかりのイシサンゴ類や八放サンゴ類の稚サンゴが海中で自由遊泳をしている共生藻を取り込むことが報告されています(Coffroth et al. 2006; Gomez-Cabrera et al. in press)。実は共生藻は遺伝子を用いて幾つかのグループに分けられますが、幼生はそのうちのいくつかのある特定の共生藻グループを選択的に取り込む能力を有しています。サンゴがどのようにして特定のパートナーを選択的に取り込んでサンゴ-共生藻の共生関係を成立させるのかは未だ分かっていません。カリフォルニア大学の研究グループは、全遺伝子配列を解読しなくても生体機能に関わる遺伝子を研究することができるexpressed sequence tags (ESTs)を用い、共生成立の機構を明らかにすることを試みています。オレゴン州立大学の研究グループは、サンゴの親戚であるイソギンチャクでは細胞死や細胞分裂に関わるごくありふれた遺伝子が発生初期の共生関係を制御していることを発見しています(Rodriguez-Lanetty et al. 2006)。


写真:左は共生藻を得たコユビミドリイシの幼生、右は単離した共生藻(撮影:諏訪僚太)

サンゴ礁を保全するための惜しみない努力は必要ですが、むやみに保全を叫んでも効果は上がりません。サンゴの生物としての特徴を理解し、効率的に保全し、ダメージの回復を促していくことが重要でしょう。そのための研究が日々進められ、サンゴ礁の回復と保全への道が模索されているのです。

参考文献

Coffroth MA, Lewis CF, Santos SR, Weaver JL (2006) Environmental populations of symbiotic dinoflagellates in the genus Symbiodinium can initiate symbioses with reef cnidarians. Current Biology 16:985-987

Gomez-Cabrera MC, Ortiz JC, Loh WKW, Ward S, Hoegh-Guldberg O (in press) Acquisition of symbiotic dinoflagellates (Symbiodinium) by juveniles of the coral Acropora longicyathus. Coral Reefs

Levy O, Appelbaum L, Leggat W, Gothlif Y, Hayward DC, Miller DJ, Hoegh-Guldberg O(2007) Light-Responsive Cryptochromes from a Simple Multicellular Animal, the Coral Acropora millepora. Science 318(5849):467-470

Pennisi E (2007) REEFS IN TROUBLE: Spawning for a Better Life. Science 318:1712-1717

Rodriguez-Lanetty M, Phillips WS, Weis VM (2006) Transcriptome analysis of a cnidarian - dinoflagellate mutualism reveals complex modulation of host gene expression. BMC Genomics 7:23

* マイクロサテライト領域:DNAの配列上で同じ構造を持つ部分が繰り返し並んでいる部分のこと。変異が大きく、個体間などで違いが生じやすいため、集団遺伝や親子判定などにも用いられる。

執筆者:沖縄リーフチェック研究会編集グループ