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チリビシのアオサンゴ(その3)

大浦湾の湾口幅3.5kmは南西方向に開き、その中央部を遮るようにナカビシ(干瀬)や浅いサンゴ礁域となっていて、湾口の両側には水路部があり、南西側の水路は大浦口。北東側の水路は大北口(オオニシグチ)があり、その大北口の水路部に面したチリビシの中に今回発見され、「チリビシのアオサンゴ群落」と地元の方々から命名されたこの大きなアオサンゴ群落は、位置します。

*「チリビシ」の由来
沖縄方言で「切れている」事をチリトーンと言います。チリトーンのチリが「切れ」に相当。ヒシ、ビシは干瀬の意味。湾口近くの安部オール島西側から高墓灯台沖まで続く大きなヒシの「ニーケービシ」から離れて、「チリビシ」は、長さ約1km余り、個数15個余りのパッチリーフが飛び飛びに点在しているため大潮の干潮時に歩いて渡れない「離れ切れている(ヒシ)干瀬」の意味です。「チリビシ」は地元で普通使われている海域(海岸海底)地名(称)ですので、この名称がこれらのサンゴ礁地形を良く表しています。

9月30日に第1回大浦湾チリビシのアオサンゴチェックを実施しました。長さが最も長い80mをはさみこむように100mメジャーを張り(アオサンゴ群落を山脈に見立てた場合、尾根に相当するところにラインをひき、ライン調査及び方形枠調査を実施した)、通常のリーフチェック調査項目に加え、スズメダイやタワシウニ、ナガウニの数も調査対象に加え、またライン調査に加えて方形枠調査も導入しました。

調査結果概略は魚類としては、スズメダイが沖縄島の他のポイントに比べて多いのが特徴的でした。一般的に健全なサンゴが多いところにはスズメダイが多いので良い傾向であると思われます。無脊椎動物としてはナガウニが多く観測されたのが特徴的でした。底質はライン調査、方形枠調査共に、優占種はアオサンゴでした。

遠目に見ると、アオサンゴ一色の群落に見えますがが、近くでよく見るとユビエダハマサンゴやアザミサンゴ、ハナヤサイサンゴなど多くのサンゴ類がアオサンゴの中に共存しているのがよくわかります。

この大きな山脈上のアオサンゴ群落が、魚類、ウニ類、シャコガイ類、ソフトコーラル、多くのサンゴ類、など多様な生き物の生息に適した環境を与え、良い足場となっているのがわかります。

大浦湾自体が面白い地形を形成しており、地理の専門家は言います。それゆえ他にはめったに見られない複雑で興味深い生態系が構成されていると推測されます。その一つの理由は、この海域には沖縄周辺では珍しい「溺れ谷」と呼ばれる地形を形成しているということにあるそうです。実際に潜ってみると、陸から礁斜面にたどり着くまでにいくつもの谷があるので水深が浅いところが続いていたと思ったら急に深くなり、また浅い環境に戻るというような繰り返しとなっています。チリビシのアオサンゴもまるで山脈をそのまま海に落としその上をアオサンゴが覆ったような形状をしていて、まるで山脈や谷が海中をそのまま沈めたような形をしており、そこに被覆状にサンゴが広がっています。

今回、大浦湾にこのような大きなアオサンゴの群落が見つかったということは、大浦湾、そして沖縄周辺のサンゴ礁の自然がまだまだ十分に把握されていないことを顕著に物語っています。今回の発見は偶然であったものの、偶然見つけられなければこのまま人に知られることもなく埋め立てられていたかもしれないことを示します。基本的に人間が潜ってみたことがない海域には何があるのかわからないのです。一番の問題点はこの貴重なサンゴ群集が広がる海をきちんとした調査もなされずに、他にもいくつも人に知られないまま埋め立てられて行く群落が生息する可能性があるのに、県や国がこの大事な財産を大切にしていないということです。

アオサンゴは分散能力が他のサンゴと比べても低いことがこれまでの研究で示唆されており(Harii et al. 2002, 2003)、いったん親サンゴの集団が失われると、他の地域からの加入は極めて難しいと考えられます。もし今回このアオサンゴ群落が発見されず、周辺の環境悪化によって人知れず失われてしまうことになれば、観光産業などでサンゴ礁に依存する地元沖縄にとって大きな損失となってしまったことでしょう。今後このアオサンゴ群落に適切な保全策が施されると同時に、まだまだ未知につつまれた沖縄周辺の海を調査・研究し、その多様性に満ちた自然を保全していくことが望まれます。

参考文献

Harii S, Kayanne H, Takigawa H, Hayashibara T, Yamamoto M (2002) Larval survivorship, competency periods and settlement of two brooding corals, Heliopora coerulea and Pocillopora damicornis. Mar Biol 141:39-46

Harii S, Kayanne H (2003) Larval dispersal, recruitment, and adult distribution of the broody stony octocoral Heliopora coerulea on Ishigaki Island, southwest Japan. Coral Reefs 22:188-196

執筆者:沖縄リーフチェック研究会編集グループ