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造礁サンゴの大規模白化について
2007.9.8(土) 掲載
造礁サンゴの多くは通常、緑褐色を始めとした色彩を持っています(図1)。これは、造礁サンゴが褐虫藻と呼ばれる単細胞の植物プランクトンを多量に共生させているからです。しかし、環境ストレス(水温が高い状態が続くなど)を受けると、サンゴの中に共生していた褐虫藻や、褐虫藻が持っている光合成色素(葉緑素など)が失われ、サンゴが本来持っている半透明な組織を透して、白い骨格が見える状態となります(図2)。これが、今回の話題のテーマであり、サンゴ礁域で現在大きな問題となっている「サンゴの白化:Coral Bleaching」と呼ばれている現象です。


図1 ショウガサンゴ 白化前(左)後(右) 図2 白化したミドリイシ群体
サンゴと褐虫藻の間には相利共生の関係が存在し、サンゴは、細胞内の褐虫藻が日中おこなっている光合成によって、成長や生殖に必要なエネルギーの大部分を得ています(山里 1991)。一方で、褐虫藻はホストであるサンゴから生息場所と代謝産物を獲得するメリットを得ています。白化したサンゴでも、しばらくの間は生きることができますが、褐虫藻を失った状態のサンゴは、生命を維持する為に必要なエネルギーを十分に得ることができなくなってしまうため、徐々に弱り、長期にわたって白化したままのサンゴは最終的に死亡してしまいます。この白化を引き起こす原因として最も有力視されているのは高温ストレスです。
近年、温暖化と連動した海水温度の急激な上昇が大規模なサンゴ白化の主な原因であることが指摘されています。1982-83年にかけて起こったエルニーニョ現象(太平洋域での表層海水温度上昇現象)の観測時には、カリブ海沿岸の各国から米国フロリダ州にかけての大西洋地域でサンゴ白化が見られました。また、1998年には世界のサンゴ礁域で大規模な白化がみられました。この年、日本では和歌山県・串本から沖縄県・八重山にかけての広い範囲での被害が報告されています。特に沖縄県では60%以上のサンゴが白化の影響を受け、サンゴ礁によっては90%のサンゴが死亡したとの報告がされており(Yamazato 1999)、沖縄県での多くの白化報告が白化の観測時期に見られる海水温の異常上昇について触れています(土屋1999, Fujioka 1999, Kayanne et al. 1999, Taniguchi et al. 1999)。この1998年の海水表面の温度は平年よりも高く、特に8月に最大で、平年より2.8℃高かったことが報告されています(Loya et al. 2001)。
今年(2007年)7月下旬以降、沖縄県の石垣島と西表島の間に広がる日本で最大のサンゴ礁でもある石西礁湖での大規模なサンゴ白化現象が報告され始めました。時を同じくして、宮古島周辺のサンゴ礁でも場所によっては9割近いサンゴで白化がみられています。原因の一端として、梅雨明け(沖縄では6月20日)以降の台風の接近にともなう海水の攪拌が殆ど起こらず、サンゴ礁内の海水温度が上昇しやすい状況が続いた事が挙げられています。殆どの造礁サンゴは、浅いタイドプール内などにも生息できる種を除いて、約20~30℃の水温域をもつ海域に見られます。しかし、晴天日が連続し、日中に干潮時間が重なるなどすると、サンゴ礁の浅い海域(イノーと呼ばれる礁池の中など)の海水は普段よりもさらに温められやすくなります。同時に、風が殆ど吹かない(適度な海水の攪拌が起こらない)などの条件が重なると、太陽の輻射熱によって昼間暖められたイノーの海水と比較的温度の低い外洋水との循環が滞ってしまうため、夜間でも水温が30℃超となり、翌日更に温められるといった状態になります。過度に暖められた海水が長期に渡ってサンゴ礁の内側に停滞してしまった場合、多くのサンゴはその高水温に耐えられなくなって白化してしまいます。
サンゴの白化は毎回一様に観察されるわけではありません(Loya et al. 2001, 図3)。1998年の沖縄で見られた大規模な白化現象時には、サンゴの種類・群体の形によって白化に大きな幅がある事が報告されています。例えば、各海域で白化の被害を最も受けた代表的なグループとして、枝状や卓状ミドリイシ・ハナヤサイサンゴが挙げられます。一方で、比較的白化が起きなかったグループとして、塊状のハマサンゴやキクメイシなどが挙げられています(Fujioka 1999, Hasegawa et al. 1999)。また、サンゴの種類によっては、白化しやすい種、白化するが死亡せずに回復しやすい種、白化後に死亡しやすい種も報告されています(Baird and Marshall, 2002, Kayanne et al. 2002)。

図3 白化したミドリイシ群体(手前)と非白化の群体(奥)互いの距離は1m以下である。
サンゴの白化現象は生物学的な定義が曖昧で、専門家でも意見の相違が見られます。白化が起きる主な原因が、ホストであるサンゴ側にあるのか、それとも褐虫藻側にあるかどうかはケースバイケースのようです。総じて共通していることは、褐虫藻との共生関係が破綻し、サンゴが不健全になっている状態だということです。同一の環境下でも、サンゴの群体ごとに白化の出現部位が異なる事があります。また、白化程度は、海域、水深、潮流の速さや透明度によって異なることが報告されており、例えば濁りのある環境では30℃を超える水温でも白化しないケースも報告されています。褐虫藻における光合成へのストレスを指標として調べてみると、高い水温によるストレス応答反応にも、明確なサンゴ種間差が認められます(Takahashi et al. 2004)。ただし、野外での環境変化は同時・複合的に起こるのが常で、環境ストレスと、それに対する生物の反応(ストレス応答)の因果関係を具体的に特定することが困難となっています。
サンゴは植物のように固着性の生活を営んでいるために、他の海産動物に比べて環境変化の影響を強く受けます。サンゴ白化現象はこのことを顕著に示していると言えるでしょう。現在サンゴは地球温暖化による温度上昇の影響を受けやすい生物群の一つとして認知されつつあります。しかし、原因は地球規模での水温異常だけではなく、沿岸部開発に伴う赤土や生活排水・肥料の流入による水質の悪化が白化による被害を更に深刻なものにしている事が指摘されています(Hasegawa et al. 1999)。都市化の進む沖縄本島の沿岸域では年々沿岸部の埋め立てが頻繁かつ大規模におこなわれており、周辺での海流パターンの変化による水温・水質の急激な変化がサンゴに及ぼす影響が懸念されます。このようにサンゴ礁海域は人間の生活にも深い関わりがあり、サンゴ礁の衰退には人為的なストレス負荷も関与しています。今後、サンゴ礁保全の観点からも、身近なサンゴ礁についての理解を深めることが重要になってくると思われます。
参考文献
Baird, A.H., Marshall, P.A. (2002) Mortality, growth and reproduction in scleractinian corals following bleaching on the Great Barrier Reef. Marine Ecology Progress Series 237: 133-141.
Fujioka, Y. (1999) Mass destruction of the hermatypic corals during a bleaching event in Ishigaki Island, southwestern Japan. Galaxea 1: 41-50
Hasegawa, H., Ichikawa, K., Kobayashi, M., Hoshino, M., Mezaki, S.
(1999) The mass-bleaching of coral reefs in the Ishigaki Lagoon, 1998. Galaxea 1: 31-39
Kayanne, H, Harii, S., Yamano, H., Tamura, M., Ide, Y., Akimoto, F. (1999) Changes in living coral coveragae before and after the 1998 bleaching event on coral reef flats of Ishigaki Island, Ryukyu Islands. Galaxea 1: 73-82
Kayanne, H., Harii, S., Ide, Y., Akimoto, F. (2002) Recovery of coral populations after the 1998 bleaching on Shiraho Reef, in the southern Ryukyus, NW Pacific. Marine Ecology Progress Series 239: 93-103
Loya, Y., Sakai, K., Yamazato, K., Nakano, Y., Sambali, H., van Woesik, R. (2001) Coral bleaching: the winners and the losers. Ecology Letters 4: 122-131
Takahashi, S., Nakamura, T., Sakamizu, M., van Woesik, R., Yamasaki, H. (2004) Repair machinery of symbiotic photosynthesis as the primary target of heat stress for reef-building corals. Plant and Cell Physiology 45:251-255
Taniguchi, H., Iwao, K., Omori, M. (1999) Coral bleaching around Akajima, Okinawa. I. A report of the September 1998 survey. Galaxea 1: 59-64
Yamazato, K. (1999) Coral bleaching in Okinawa, 1980 vs 1998. Galaxea 1: 83-88
土屋 誠 (1999) Warning from the coral reefs. Galaxea 1: 27-32
山里清 (1991) サンゴの生物学 p.150, 東京大学出版会, 東京
執筆者:中村崇・井口亮
造礁サンゴの大規模白化について
造礁サンゴの多くは通常、緑褐色を始めとした色彩を持っています(図1)。これは、造礁サンゴが褐虫藻と呼ばれる単細胞の植物プランクトンを多量に共生させているからです。しかし、環境ストレス(水温が高い状態が続くなど)を受けると、サンゴの中に共生していた褐虫藻や、褐虫藻が持っている光合成色素(葉緑素など)が失われ、サンゴが本来持っている半透明な組織を透して、白い骨格が見える状態となります(図2)。これが、今回の話題のテーマであり、サンゴ礁域で現在大きな問題となっている「サンゴの白化:Coral Bleaching」と呼ばれている現象です。


図1 ショウガサンゴ 白化前(左)後(右) 図2 白化したミドリイシ群体
サンゴと褐虫藻の間には相利共生の関係が存在し、サンゴは、細胞内の褐虫藻が日中おこなっている光合成によって、成長や生殖に必要なエネルギーの大部分を得ています(山里 1991)。一方で、褐虫藻はホストであるサンゴから生息場所と代謝産物を獲得するメリットを得ています。白化したサンゴでも、しばらくの間は生きることができますが、褐虫藻を失った状態のサンゴは、生命を維持する為に必要なエネルギーを十分に得ることができなくなってしまうため、徐々に弱り、長期にわたって白化したままのサンゴは最終的に死亡してしまいます。この白化を引き起こす原因として最も有力視されているのは高温ストレスです。
近年、温暖化と連動した海水温度の急激な上昇が大規模なサンゴ白化の主な原因であることが指摘されています。1982-83年にかけて起こったエルニーニョ現象(太平洋域での表層海水温度上昇現象)の観測時には、カリブ海沿岸の各国から米国フロリダ州にかけての大西洋地域でサンゴ白化が見られました。また、1998年には世界のサンゴ礁域で大規模な白化がみられました。この年、日本では和歌山県・串本から沖縄県・八重山にかけての広い範囲での被害が報告されています。特に沖縄県では60%以上のサンゴが白化の影響を受け、サンゴ礁によっては90%のサンゴが死亡したとの報告がされており(Yamazato 1999)、沖縄県での多くの白化報告が白化の観測時期に見られる海水温の異常上昇について触れています(土屋1999, Fujioka 1999, Kayanne et al. 1999, Taniguchi et al. 1999)。この1998年の海水表面の温度は平年よりも高く、特に8月に最大で、平年より2.8℃高かったことが報告されています(Loya et al. 2001)。
今年(2007年)7月下旬以降、沖縄県の石垣島と西表島の間に広がる日本で最大のサンゴ礁でもある石西礁湖での大規模なサンゴ白化現象が報告され始めました。時を同じくして、宮古島周辺のサンゴ礁でも場所によっては9割近いサンゴで白化がみられています。原因の一端として、梅雨明け(沖縄では6月20日)以降の台風の接近にともなう海水の攪拌が殆ど起こらず、サンゴ礁内の海水温度が上昇しやすい状況が続いた事が挙げられています。殆どの造礁サンゴは、浅いタイドプール内などにも生息できる種を除いて、約20~30℃の水温域をもつ海域に見られます。しかし、晴天日が連続し、日中に干潮時間が重なるなどすると、サンゴ礁の浅い海域(イノーと呼ばれる礁池の中など)の海水は普段よりもさらに温められやすくなります。同時に、風が殆ど吹かない(適度な海水の攪拌が起こらない)などの条件が重なると、太陽の輻射熱によって昼間暖められたイノーの海水と比較的温度の低い外洋水との循環が滞ってしまうため、夜間でも水温が30℃超となり、翌日更に温められるといった状態になります。過度に暖められた海水が長期に渡ってサンゴ礁の内側に停滞してしまった場合、多くのサンゴはその高水温に耐えられなくなって白化してしまいます。
サンゴの白化は毎回一様に観察されるわけではありません(Loya et al. 2001, 図3)。1998年の沖縄で見られた大規模な白化現象時には、サンゴの種類・群体の形によって白化に大きな幅がある事が報告されています。例えば、各海域で白化の被害を最も受けた代表的なグループとして、枝状や卓状ミドリイシ・ハナヤサイサンゴが挙げられます。一方で、比較的白化が起きなかったグループとして、塊状のハマサンゴやキクメイシなどが挙げられています(Fujioka 1999, Hasegawa et al. 1999)。また、サンゴの種類によっては、白化しやすい種、白化するが死亡せずに回復しやすい種、白化後に死亡しやすい種も報告されています(Baird and Marshall, 2002, Kayanne et al. 2002)。

図3 白化したミドリイシ群体(手前)と非白化の群体(奥)互いの距離は1m以下である。
サンゴの白化現象は生物学的な定義が曖昧で、専門家でも意見の相違が見られます。白化が起きる主な原因が、ホストであるサンゴ側にあるのか、それとも褐虫藻側にあるかどうかはケースバイケースのようです。総じて共通していることは、褐虫藻との共生関係が破綻し、サンゴが不健全になっている状態だということです。同一の環境下でも、サンゴの群体ごとに白化の出現部位が異なる事があります。また、白化程度は、海域、水深、潮流の速さや透明度によって異なることが報告されており、例えば濁りのある環境では30℃を超える水温でも白化しないケースも報告されています。褐虫藻における光合成へのストレスを指標として調べてみると、高い水温によるストレス応答反応にも、明確なサンゴ種間差が認められます(Takahashi et al. 2004)。ただし、野外での環境変化は同時・複合的に起こるのが常で、環境ストレスと、それに対する生物の反応(ストレス応答)の因果関係を具体的に特定することが困難となっています。
サンゴは植物のように固着性の生活を営んでいるために、他の海産動物に比べて環境変化の影響を強く受けます。サンゴ白化現象はこのことを顕著に示していると言えるでしょう。現在サンゴは地球温暖化による温度上昇の影響を受けやすい生物群の一つとして認知されつつあります。しかし、原因は地球規模での水温異常だけではなく、沿岸部開発に伴う赤土や生活排水・肥料の流入による水質の悪化が白化による被害を更に深刻なものにしている事が指摘されています(Hasegawa et al. 1999)。都市化の進む沖縄本島の沿岸域では年々沿岸部の埋め立てが頻繁かつ大規模におこなわれており、周辺での海流パターンの変化による水温・水質の急激な変化がサンゴに及ぼす影響が懸念されます。このようにサンゴ礁海域は人間の生活にも深い関わりがあり、サンゴ礁の衰退には人為的なストレス負荷も関与しています。今後、サンゴ礁保全の観点からも、身近なサンゴ礁についての理解を深めることが重要になってくると思われます。
参考文献
Fujioka, Y. (1999) Mass destruction of the hermatypic corals during a bleaching event in Ishigaki Island, southwestern Japan. Galaxea 1: 41-50
Hasegawa, H., Ichikawa, K., Kobayashi, M., Hoshino, M., Mezaki, S.
(1999) The mass-bleaching of coral reefs in the Ishigaki Lagoon, 1998. Galaxea 1: 31-39
Kayanne, H, Harii, S., Yamano, H., Tamura, M., Ide, Y., Akimoto, F. (1999) Changes in living coral coveragae before and after the 1998 bleaching event on coral reef flats of Ishigaki Island, Ryukyu Islands. Galaxea 1: 73-82
Kayanne, H., Harii, S., Ide, Y., Akimoto, F. (2002) Recovery of coral populations after the 1998 bleaching on Shiraho Reef, in the southern Ryukyus, NW Pacific. Marine Ecology Progress Series 239: 93-103
Loya, Y., Sakai, K., Yamazato, K., Nakano, Y., Sambali, H., van Woesik, R. (2001) Coral bleaching: the winners and the losers. Ecology Letters 4: 122-131
Takahashi, S., Nakamura, T., Sakamizu, M., van Woesik, R., Yamasaki, H. (2004) Repair machinery of symbiotic photosynthesis as the primary target of heat stress for reef-building corals. Plant and Cell Physiology 45:251-255
Taniguchi, H., Iwao, K., Omori, M. (1999) Coral bleaching around Akajima, Okinawa. I. A report of the September 1998 survey. Galaxea 1: 59-64
Yamazato, K. (1999) Coral bleaching in Okinawa, 1980 vs 1998. Galaxea 1: 83-88
土屋 誠 (1999) Warning from the coral reefs. Galaxea 1: 27-32
山里清 (1991) サンゴの生物学 p.150, 東京大学出版会, 東京
執筆者:中村崇・井口亮
