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サンゴ礁の海とタコ
2007.6.14(木) 掲載
サンゴ礁には実に多くの生物が生息しています。これまで、サンゴそのものや魚類など様々な生物を対象に数多くの調査・研究が行われてきました。しかし、動物群によってはあまり注目されず大幅に研究が遅れているものもいます。ここではそんな動物のひとつ、サンゴ礁に生息するタコについてご紹介させていただきたいと思います。
「タコ」と聞いてどんな動物かわからないという方はいないでしょう。タコは我々日本人には特に馴染み深い動物です。ところが「タコの生物学」というのは案外研究されていません。沖縄の海に何種類のタコが生息しているのか?−そんな疑問も実はつい最近まで全くわかっていなかったのです。
図鑑を開いて沖縄のタコを探してみると、沖縄の海にはせいぜい3〜4種類くらいしかいないことになっています。ところが実際調査してみると20種類近くのタコが生息していることがわかりました(金子、未発表)。ここではリーフチェック研究会でも調査を行った沖縄本島南部にある大度海岸のイノー(写真1)の中に生息しているタコをご紹介しましょう。
写真2AはワモンダコOctopus cyaneaという種です。これは漁獲対象として沖縄の市場にあがっているタコで、ダイビング中にもっとも遭遇する率の高いタコでもあります。写真2B以降は、特に冬の夜の干潮時にライトを持って浅瀬を歩くとよく遭遇するタコです。写真2BはシマダコCallistoctopus ornatus、写真2CはオオマルモンダコHapalochlaena lunulataというタコです。オオマルモンダコは唾液腺にフグ毒と同じ成分を含む毒を持つことから危険種とされています(応急処置法は文末を参照)。図鑑によく掲載されている種です。次に写真2DはソデフリダコOctopus laqueusというタコで琉球列島から2005年に新種として報告されました(Kaneko and Kubodera, 2005)。大度海岸では最もよく見かける種です。写真2E以降は和名がありません。日本ではほとんど認知されていない種といえます。その中でも写真2EのOctopus wolfiという種は生きているサンゴの隙間を好んで棲家にしています。この仲間は全長でもせいぜい5cmほどの小型のタコで、腕の先の吸盤が花びらのようになっているのが特徴です。英語ではStar sucker octopus(星の吸盤を持つタコ)と呼ばれています(Norman, 2000)。詳しい生態は全くわかっていませんが、このタコがサンゴと密接に関係した生活史を持っていることは確かなようです。
写真2B シマダコ Callistoctopus ornatus
写真2C オオマルモンダコ Hapalochlaena lunulata
このように、決して広くはないイノーの中を見ただけでも数多くの多様なタコ類が生息していることがわかります。ところが、サンゴ礁の生態学の話の中でタコが出てくるのは極めて稀なことです。なぜサンゴ礁のタコの存在が認知されてこなかったのか−その理由はタコの分類の遅れにあります。最近20年ほど(1990年以降)で新種として確認されているタコ類は世界中で150種にのぼります。これはそれまで認識されてきた種数とほぼ同じ数です。つまり、世界のタコの種数は一気に倍になってしまったことになります(Norman and Hochberg, 2005)。このことからも分かるように、タコの分類は、ようやくその多様な種の存在を認識し始めたところなのです。
近年の保全生物学の中でキーワードになっているのが「生物多様性の保全」という言葉です。生態系は多様な生き物がその環境や生物種同士と複雑に関係しあって成り立っています。生態系保全を考えるとき、その関係をなるべく多く把握していくことが重要でしょう。そのためには役者を揃えることが必要です。タコのように、皆が知っている動物でも案外「こんなにいるなんて知らなかった!」という生物がいるかもしれません。サンゴ礁生態系とその保全を考えていくうえで、このようなスポットライトを浴びていない生き物たちの多様性も今後解明していく必要があると私は考えています。
沖縄の海に潜るとき、ちょっとこの8本足の奇妙な動物のことを思い出してみてください。もしかしたらサンゴの隙間から目だけ出して貴方のことを見ているかもしれません。
参考文献
Kaneko, N and Kubodera, T. 2005. A new species of shallow water octopus, Octopus laqueus, (Cephalopoda: Octopodidae) from Okinawa, Japan. Bulletin of the National Science Museum series A (Zoology), 31(1), 7-20.
Norman, M.D. 2000. Cephalopod A World Guide. ConchBooks, Hackenheim, Germany.
320 pp.
Norman, M.D. and Hochberg, F.G. 2005a. The current state of Octopus taxonomy. Phuket marine biological center research bulletin, 66: 127ミ154.
執筆者:金子奈都美
注)本文中の「タコ類」とは底生性のマダコ科タコ類を指しています。
<オオマルモンダコ(ヒョウモンダコ)に咬まれた時の応急処置>
1. 傷口から毒を吸引する。このとき絶対に口で吸わないこと(神経毒のため)。
2. 心臓に近い部分をきつく縛り、毒の拡散を防ぐ
3. 早急に救急車を呼び病院へ搬送する。
オオマルモンダコ(ヒョウモンダコ)は非常に強い毒を持つと言われています。応急処置も大切ですが、咬まれないようにすることが何よりも大切です。直接素手で触らないようにし、むやみにいじらないようにしましょう。大人しいタコなのでこちらが何もしない限りは攻撃してくることはまずありません。また、岩の下などに隠れていることがありますので、磯で採集するときは周囲によく気を配るようにしましょう。
サンゴ礁の海とタコ
サンゴ礁には実に多くの生物が生息しています。これまで、サンゴそのものや魚類など様々な生物を対象に数多くの調査・研究が行われてきました。しかし、動物群によってはあまり注目されず大幅に研究が遅れているものもいます。ここではそんな動物のひとつ、サンゴ礁に生息するタコについてご紹介させていただきたいと思います。
「タコ」と聞いてどんな動物かわからないという方はいないでしょう。タコは我々日本人には特に馴染み深い動物です。ところが「タコの生物学」というのは案外研究されていません。沖縄の海に何種類のタコが生息しているのか?−そんな疑問も実はつい最近まで全くわかっていなかったのです。
図鑑を開いて沖縄のタコを探してみると、沖縄の海にはせいぜい3〜4種類くらいしかいないことになっています。ところが実際調査してみると20種類近くのタコが生息していることがわかりました(金子、未発表)。ここではリーフチェック研究会でも調査を行った沖縄本島南部にある大度海岸のイノー(写真1)の中に生息しているタコをご紹介しましょう。
写真2AはワモンダコOctopus cyaneaという種です。これは漁獲対象として沖縄の市場にあがっているタコで、ダイビング中にもっとも遭遇する率の高いタコでもあります。写真2B以降は、特に冬の夜の干潮時にライトを持って浅瀬を歩くとよく遭遇するタコです。写真2BはシマダコCallistoctopus ornatus、写真2CはオオマルモンダコHapalochlaena lunulataというタコです。オオマルモンダコは唾液腺にフグ毒と同じ成分を含む毒を持つことから危険種とされています(応急処置法は文末を参照)。図鑑によく掲載されている種です。次に写真2DはソデフリダコOctopus laqueusというタコで琉球列島から2005年に新種として報告されました(Kaneko and Kubodera, 2005)。大度海岸では最もよく見かける種です。写真2E以降は和名がありません。日本ではほとんど認知されていない種といえます。その中でも写真2EのOctopus wolfiという種は生きているサンゴの隙間を好んで棲家にしています。この仲間は全長でもせいぜい5cmほどの小型のタコで、腕の先の吸盤が花びらのようになっているのが特徴です。英語ではStar sucker octopus(星の吸盤を持つタコ)と呼ばれています(Norman, 2000)。詳しい生態は全くわかっていませんが、このタコがサンゴと密接に関係した生活史を持っていることは確かなようです。
写真2B シマダコ Callistoctopus ornatus
写真2C オオマルモンダコ Hapalochlaena lunulata
このように、決して広くはないイノーの中を見ただけでも数多くの多様なタコ類が生息していることがわかります。ところが、サンゴ礁の生態学の話の中でタコが出てくるのは極めて稀なことです。なぜサンゴ礁のタコの存在が認知されてこなかったのか−その理由はタコの分類の遅れにあります。最近20年ほど(1990年以降)で新種として確認されているタコ類は世界中で150種にのぼります。これはそれまで認識されてきた種数とほぼ同じ数です。つまり、世界のタコの種数は一気に倍になってしまったことになります(Norman and Hochberg, 2005)。このことからも分かるように、タコの分類は、ようやくその多様な種の存在を認識し始めたところなのです。
近年の保全生物学の中でキーワードになっているのが「生物多様性の保全」という言葉です。生態系は多様な生き物がその環境や生物種同士と複雑に関係しあって成り立っています。生態系保全を考えるとき、その関係をなるべく多く把握していくことが重要でしょう。そのためには役者を揃えることが必要です。タコのように、皆が知っている動物でも案外「こんなにいるなんて知らなかった!」という生物がいるかもしれません。サンゴ礁生態系とその保全を考えていくうえで、このようなスポットライトを浴びていない生き物たちの多様性も今後解明していく必要があると私は考えています。
沖縄の海に潜るとき、ちょっとこの8本足の奇妙な動物のことを思い出してみてください。もしかしたらサンゴの隙間から目だけ出して貴方のことを見ているかもしれません。
参考文献
Kaneko, N and Kubodera, T. 2005. A new species of shallow water octopus, Octopus laqueus, (Cephalopoda: Octopodidae) from Okinawa, Japan. Bulletin of the National Science Museum series A (Zoology), 31(1), 7-20.
Norman, M.D. 2000. Cephalopod A World Guide. ConchBooks, Hackenheim, Germany.
320 pp.
Norman, M.D. and Hochberg, F.G. 2005a. The current state of Octopus taxonomy. Phuket marine biological center research bulletin, 66: 127ミ154.
執筆者:金子奈都美
注)本文中の「タコ類」とは底生性のマダコ科タコ類を指しています。
<オオマルモンダコ(ヒョウモンダコ)に咬まれた時の応急処置>
1. 傷口から毒を吸引する。このとき絶対に口で吸わないこと(神経毒のため)。
2. 心臓に近い部分をきつく縛り、毒の拡散を防ぐ
3. 早急に救急車を呼び病院へ搬送する。
オオマルモンダコ(ヒョウモンダコ)は非常に強い毒を持つと言われています。応急処置も大切ですが、咬まれないようにすることが何よりも大切です。直接素手で触らないようにし、むやみにいじらないようにしましょう。大人しいタコなのでこちらが何もしない限りは攻撃してくることはまずありません。また、岩の下などに隠れていることがありますので、磯で採集するときは周囲によく気を配るようにしましょう。

写真1 大度海岸
写真2A ワモンダコ Octopus cyanea
写真2D ソデフリダコ O. laqueus
写真2E O. wolfi
写真2F C. aspilosomatis