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サンゴの粘液の話
2007.5.1(火) 掲載
サンゴ礁生態系の基盤である造礁サンゴは、何らかのストレスを受けるとたくさんの粘液を放出することが知られています。サンゴ礁のリーフの上を歩いている時、波打ち際に泡立ったもやもやをたまに目にしますが、あれはサンゴの粘液がいろいろなものを含んで打ち上げられたものです(写真1、2)。
このサンゴの粘液は、サンゴ自身ではなく、サンゴの中に共生している褐虫藻が主に作っています。その粘液、一体サンゴにとってどのような役割を担っているのでしょうか。一般には付着生物が付くのを防ぐため、干上がった時の乾燥を防ぐため、沈殿物が付着したのを取り除くためだと考えられていますが、この粘液が、サンゴ礁生態系の物質循環に重要な役割を果たしている可能性を示唆した研究報告が、2004年にWildらによって報告されました。
Wildらによると、粘液の半分以上を占める可溶性の部分は海水中のバクテリアの餌になり、残りの不溶性の部分は海水を漂ううちにバクテリアや藻類、炭素粒子などをたくさんトラップして、どんどん小さくなって沈んでいき、礁内の砂底で濾過されるそうです。この役割は、サンゴの被度が上がるほど、またリーフによく囲まれている場所ほど重要性は増すと考えられます。この粘液の役割によって、貧栄養なサンゴ礁域でも効率よく礁内での物質循環が行なわれると、Wildらは考えています。
またWildらは、サンゴの粘液だけでなく、一斉産卵時に放出された卵などが底質で分解されること、そしてその物質分解の効率は、砂質状の底質の方が、シルト状の底質よりも高いことも示しています。サンゴ礁域の特徴的な要素である、サンゴの粘液と砂質状の底質が、貧栄養なサンゴ礁域で効率的な物質循環に重要な役割を果たしている可能性を、Wildらは一連の研究で示しました。
サンゴの役割は、サンゴ礁という土台そのものを形成したり、サンゴ礁に生きる様々な生物に棲み場所を与えたりするなど様々ですが、もともとサンゴが自分を守るために発達した粘液が、サンゴ礁域での物質循環にも重要な役割を果たしているということは、サンゴ礁域におけるサンゴの重要性をますます決定づけるものです。
意外なサンゴの粘液の役割は、サンゴ礁生態系の複雑なバランス関係についての示唆を与えてくれます。こうした巧妙に組み立てられたサンゴ礁でのバランス関係をひもとくには、地道な研究の積み重ねが必要です。進化の過程で作り上げられたサンゴ礁における複雑なバランス関係の一面を明らかにすることは、生態系そのものを保全することの意義と、目には見えない裏側に隠された自然の面白さを知る機会を与えてくれるのでしょう。
参考文献
:Wild C, Huettel M, Klueter A, Kremb SG, Rasheed MYM, and Jorgensen BB (2004) Coral mucus functions as an energy carrier and particle trap in the reef ecosystem. Nature 428:66-70
:Wild C, Tollrian R, and Huettel M (2004) Rapid recycling of coral mass-spawning products in permeable reef sediments. Mar Ecol Prog Ser 271:159-166
執筆者:井口亮、写真提供:西原千尋
サンゴの粘液の話
サンゴ礁生態系の基盤である造礁サンゴは、何らかのストレスを受けるとたくさんの粘液を放出することが知られています。サンゴ礁のリーフの上を歩いている時、波打ち際に泡立ったもやもやをたまに目にしますが、あれはサンゴの粘液がいろいろなものを含んで打ち上げられたものです(写真1、2)。
このサンゴの粘液は、サンゴ自身ではなく、サンゴの中に共生している褐虫藻が主に作っています。その粘液、一体サンゴにとってどのような役割を担っているのでしょうか。一般には付着生物が付くのを防ぐため、干上がった時の乾燥を防ぐため、沈殿物が付着したのを取り除くためだと考えられていますが、この粘液が、サンゴ礁生態系の物質循環に重要な役割を果たしている可能性を示唆した研究報告が、2004年にWildらによって報告されました。
Wildらによると、粘液の半分以上を占める可溶性の部分は海水中のバクテリアの餌になり、残りの不溶性の部分は海水を漂ううちにバクテリアや藻類、炭素粒子などをたくさんトラップして、どんどん小さくなって沈んでいき、礁内の砂底で濾過されるそうです。この役割は、サンゴの被度が上がるほど、またリーフによく囲まれている場所ほど重要性は増すと考えられます。この粘液の役割によって、貧栄養なサンゴ礁域でも効率よく礁内での物質循環が行なわれると、Wildらは考えています。
またWildらは、サンゴの粘液だけでなく、一斉産卵時に放出された卵などが底質で分解されること、そしてその物質分解の効率は、砂質状の底質の方が、シルト状の底質よりも高いことも示しています。サンゴ礁域の特徴的な要素である、サンゴの粘液と砂質状の底質が、貧栄養なサンゴ礁域で効率的な物質循環に重要な役割を果たしている可能性を、Wildらは一連の研究で示しました。
サンゴの役割は、サンゴ礁という土台そのものを形成したり、サンゴ礁に生きる様々な生物に棲み場所を与えたりするなど様々ですが、もともとサンゴが自分を守るために発達した粘液が、サンゴ礁域での物質循環にも重要な役割を果たしているということは、サンゴ礁域におけるサンゴの重要性をますます決定づけるものです。
意外なサンゴの粘液の役割は、サンゴ礁生態系の複雑なバランス関係についての示唆を与えてくれます。こうした巧妙に組み立てられたサンゴ礁でのバランス関係をひもとくには、地道な研究の積み重ねが必要です。進化の過程で作り上げられたサンゴ礁における複雑なバランス関係の一面を明らかにすることは、生態系そのものを保全することの意義と、目には見えない裏側に隠された自然の面白さを知る機会を与えてくれるのでしょう。
参考文献
:Wild C, Huettel M, Klueter A, Kremb SG, Rasheed MYM, and Jorgensen BB (2004) Coral mucus functions as an energy carrier and particle trap in the reef ecosystem. Nature 428:66-70
:Wild C, Tollrian R, and Huettel M (2004) Rapid recycling of coral mass-spawning products in permeable reef sediments. Mar Ecol Prog Ser 271:159-166
執筆者:井口亮、写真提供:西原千尋




